猛烈な風と雨により甚大な被害をもたらす台風。アメリカでも同じように巨大な雲のかたまりであるハリケーンがシーズンごとに猛威を振るい、人の命を脅かしている。ハリケーンとはどのような現象で、どのような被害を引き起こすのか?
アメリカにおいて気象庁の役割を担うのがNOAA(ノア)National Oceanic and Atmospheric Administration 、アメリカ海洋大気庁である。本稿では、NOAAが公表しているハリケーンの基礎知識を参考に、その仕組みと影響について解説する。
ハリケーンとは何か?
自然界で最も強力な嵐のひとつであるハリケーンは、強風、高潮、大雨をもたらし、内陸部の洪水、竜巻、離岸流などの被害を引き起こす強大なパワーを持つ。
ハリケーンは熱帯低気圧の一種で、熱帯または亜熱帯の海域で発生する雷雨を伴う低気圧であり、暖かい海水からエネルギーを得ている。
嵐がハリケーンへと強まると、地表の風は継続的に円運動をする。気象学者はこのパターンを「閉鎖循環」と呼ぶ。循環の方向は嵐の発生地域によって異なり、北半球では反時計回り、南半球では時計回りである。
これらの回転する風によりハリケーンの「目」、つまり嵐の中心部分は、雲が少なく天気も比較的穏やかな状態になる。目の外側は風が最も強く吹く領域で、壁雲(かべぐも)= アイウォールに囲まれている。
熱帯低気圧は最大風速によって分類される。
- 風速39mph(約17m/s)未満::熱帯低気圧(Tropical depressions)
- 風速39~73mph(約17〜約33m/s):熱帯低気圧 (Tropical storms )
- 風速74mph(約33m/s)以上:ハリケーン(Hurricanes)
メジャー(大型)ハリケーンでは、少なくとも111mph(約50m/s)の風速になり、一時的には風速180 mph(約80m/s)を超え、突風になると200mph(約89m/s)に達することがある。
名前について
ハリケーン、台風、サイクロンはすべて同じ種類の嵐だが、発生する地域によって名前が異なる。北大西洋、北太平洋中部および東部では「ハリケーン」と呼び、北太平洋西部では「台風」、南太平洋およびインド洋では「サイクロン」と呼ぶ。(南大西洋で熱帯低気圧が発生することはほとんどない)
ハリケーンの個々の命名については、嵐が熱帯低気圧レベルまで強まると名前が付く。世界気象機関(WMO)の国際委員会がルールを定めており、発生エリア別に異なる「名前リスト」を作成している。リストにある名前は 6 年ごとに再利用されるが、特に被害が大きかったハリケーンの名前は廃止される場合がある。これは被害を受けた地域住民の感情的な理由、および歴史的な意義を考慮しての処置である。
熱帯低気圧はどのように形成されるのか?
熱帯低気圧は、熱帯波(東から西へ移動する低気圧の波)や雷雲の集団の形成など、大気の風や湿度などの変化に伴い発生する気象現象である。熱帯低気圧が成長するには、以下の条件が満たされている必要がある。
- 暖かい海水(少なくとも 80°F/27°C)
- 温度差によって生じる不安定な大気。高度が上がるにつれて温度が低下
- 大気の中層付近の湿った空気
- 赤道から少なくとも 200 マイル北または南にある (まれに例外がある)
- 高さによる風速や風向の変化(ウインドシアと呼ばれる)が小さい
ハリケーン・シーズン
ハリケーンやその前段階である熱帯低気圧は、人命や財産にさまざまな脅威をもたらす。特に歴史的に最も大きな被害を出しているのは高潮と洪水である。そのほかハリケーンは、強風、竜巻、高波、引き潮による災害をも引き起こす。
ハリケーンへの備えはシーズンが始まる前に行うのが理想的だ。ハリケーン・シーズンの始まりは、大西洋では 6 月 1 日、東部および中部太平洋では 5 月 15 日となっている。
ハリケーンの分類
ハリケーンは、風速を1から5のスケールで表すサファ・シンプソンハリケーン風力スケールで分類される。最も威力が大きいのがカテゴリー5だが、熱帯低気圧やカテゴリー1または 2 のハリケーンでも、甚大な被害を引き起こす可能性があることに注意しなければならない。
サファ・シンプソンハリケーン風力スケールは、風力技術者のハーブ・サファーと気象学者のボブ・シンプソンによって、さまざまな風速で建物が受ける被害を説明するために作成された。注意したいのは、このスケールには大雨、洪水、高潮による危険性が表現されていないことである。
風力スケールが小さいハリケーンでも危険な暴風を伴うが、カテゴリー3 以上に分類されたハリケーンは「メジャーハリケーン(major hurricanes)」と呼ばれ、その風の威力だけで、壊滅的な損害を引き起こしたり人命を奪う危険性がある。
カテゴリ | 持続的な風 | ハリケーンの風による被害の種類 |
---|---|---|
74-95mph 約33-42m/s | 非常に危険な強風により、ある程度の被害が発生。しっかりと建てられた木造住宅でも、屋根、屋根板、ビニール製の外壁、雨どいが損傷する。木の大きな枝が折れ、浅く根を張った木は倒れる。電線や電柱に甚大な被害が発生すると、数日から数日間続く停電が発生する。 | |
96-110mph 約42-49m/s | 極めて危険な強風により、広範囲にわたる被害が発生。しっかりと建てられた木造住宅でも、屋根や外壁が大きく損傷する。浅く根を張った多くの木が折れたり、根こそぎ倒れたりして、多数の道路がふさがれる。ほぼ全ての電力が失われると予想され、停電は数日から数週間続く。 | |
(メジャー) | 111-129mph 約50-58m/s | 壊滅的な被害が発生。しっかりと建てられた家屋でも、屋根のデッキや切妻の端が大きな損傷を受けたりはがれたりする。多くの木が折れたり、根こそぎ倒れたりして、多くの道路がふさがれる。嵐が過ぎ去った後も、数日から数週間は電気と水道が利用できなくなる。 |
(メジャー) | 130-156mph 約58-70m/s | 壊滅的な被害が発生。しっかりと建てられた家屋でも、屋根構造の大部分や外壁の一部が失われるなど、深刻な被害を受ける。ほとんどの木は折れたり、根こそぎ倒れたりして、電柱も倒れる。倒木や倒れた電柱により、住宅地は孤立する。停電は数週間から数か月続く。ほとんどの地域で、数週間から数か月間、居住不可能になる。 |
(メジャー) | 157mph以上 約70m/s以上 | 壊滅的な被害が発生。木造住宅の大部分が破壊され、屋根が完全に落ち、壁が崩壊する。倒木や倒れた電柱により住宅地が孤立。停電は数週間から数か月間続く可能性がある。ほとんどの地域で、数週間から数か月間、居住不可能に。 |
北太平洋西部では、風速が時速150mph(約67m/s)を超える熱帯低気圧を「スーパー台風(super typhoon)」と呼んでいる
リスクの把握と理解
ハリケーンや熱帯低気圧は特定の場所にさまざまな独自の危険をもたらす可能性がある。それゆえ高潮避難区域や洪水が発生する可能性がある地域の住人は、日頃からリスクをしっかり把握しておくことが重要である。以前にその地域で嵐の中を生き延びたことがあったとしても、将来のハリケーンが別の危険をもたらす可能性は十分にある。
暴風雨や高潮の注意報や警報が発令される前に、自治体が避難命令を発令することがある。避難命令は、暴風雨などによる最初の危険が到来する前に、住民が十分な時間をとって脆弱な地域から避難できるよう発令するものである。避難命令が出たら速やかに準備をして避難することが大切である。
ハリケーンは異常な降雨をもたらす
暖かい空気は冷たい空気よりも多くの水分を含むことができる。熱帯低気圧の空気は特に暖かく、大量の水分を保持する。空気中の水分は上昇するにつれて冷やされ、やがて凝縮して激しい雨になる。その量は通常の低気圧よりもはるかに多い。
こうした多量の雨は沿岸部だけでなく、何マイルも内陸にまで及ぶ可能性があり、嵐の後も数日から数週間にわたって洪水を引き起こすことがある。大雨が発生した地域の住人は、常に避難指示に従い、冠水した道路には絶対に車で入ってはいけない。低地や洪水が発生しやすい地域に住んでいる場合は、嵐が始まる前に避難計画を立てておくべきである。
最大の脅威は風よりも高潮
破壊的な暴風を伴うハリケーンだが、その最大の脅威は高潮である。高潮はハリケーンの渦巻く風によって海岸に押し上げられる水のことで、この水位上昇により、沿岸地域では深刻な洪水が発生する場合がある。アメリカの人口密集地である大西洋岸とメキシコ湾岸の海岸線の多くは、標高が10フィート(約3メートル)未満であるため、高潮被害の危険性が非常に高い。過去に上陸したハリケーンによる死者の約半数が高潮が原因で亡くなっている。
水から逃げ、風から隠れる
洪水が発生する危険性がある場合、海や川、湖沼などの水域に近い場所や低い土地などから離れて、高台に避難することが重要である。ほとんどの避難命令は風ではなく水による被害に対して発令される。洪水の危険度が小さい場合でも、強い風が吹き荒れている時は、頑丈な建物の中に避難してドアや窓から離れたところに留まることが大切である。
下の図は、大西洋で発生した熱帯低気圧による直接的な死亡原因を示したものである。
Rain(雨)が27%、Surf(海岸付近の高波)が6%、Offshore(沖合での高波や風)が6%、Wind(風)が8%、Tornado(竜巻)が3%、Other(その他)が1%、Storm surge(高潮)が49%となっている。死因の88%が水によるものである。
嵐が過ぎ去った後も安全に
ハリケーンによる危険な状況は天気が回復しても消えるわけではない。嵐が去った後は、発電機を使用し、体に負荷をかけすぎないように注意し、安全が確認できるまでは被害を受けた地域に近づかないようにする。嵐の後、心臓発作、停電関連の問題、事故などにより、多くの死者が報告されている。
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