【台風の予測精度】気象庁と米軍どちらが当たる?

米軍による台風予測とは

台風の接近が予想される時、インターネットで「米軍の予報」を参考にする人は多い。「米軍の予報」は正確にいうと、JTWC(Joint Typhoon Warning Center)、合同台風警報センター(日本の呼称)が発表している予報のこと。JTWCはアメリカ海軍と空軍が共同で設置した施設で、ハワイの真珠湾海軍基地にある。アメリカの軍事基地や関連施設が台風によって受ける被害を予測し、その情報をもとにアメリカ国防総省が必要な対応を取る。

気象庁とJTWCの予測精度はほぼ同じ

では、台風予測に関して、日本の気象庁とJTWCの当たる確率はどちらが高いのか。答えは「ほぼ同じ」と考えていい。台風によっては気象庁とJTWCの予想進路が異なることがしばしばあるが、気象庁が当たる場合もあれば、JTWCが当たる場合もあり、正確な比較データは存在せず、平均するとほぼ同じになると考えられる。日本から遠い場所において予想進路に若干の違いが見られても、日本に接近する頃には大抵一致してくる。

台風の予想進路を比較

令和5年8月上旬に沖縄から九州を暴風域に巻き込みながら北上した台風6号の予報を比較してみよう。この台風は南海上で非常に複雑な動きをした「予報官泣かせ」の台風だった。

8月6日正午に気象庁が発表した予報と、同日午前9時にJTWCが発表した予報を並べてみる。左側の気象庁の予報では、分かりやすくするために9日と10日の予報円を白く半透明に色をつけている。右側のJTWCでは世界標準時を日本時間に修正した日時を加えている。

それぞれの台風の中心位置と到達時刻、予想進路が「ほぼ一致」していることが分かる。

「米軍予報の方が当たる」という声も時々耳にするが、これは、JTWCでは以前から台風の中心線を表示していたのに対し、気象庁はかつては中心線は表示せず、台風の中心が70%の確率で入るエリア(予報円)のみを表示していて、「見やすさ・分かりやすさ」の違いからこうした誤解が生じたともいわれている。

米軍には、公表していない情報収集衛星が数多く存在し、台風に関しても他国にはない大量の最新データがあるはずだ。しかし気象庁には世界でトップレベルの予測技術とスパコンがあり、気象データも世界中の陸海空・宇宙から得ていて、予測精度はJTWCに比肩、または時にはJTWC を上回る結果を出している。
結論から言えば、台風の予報は気象庁発表のものを使用して、JTWCは参考情報(セカンドオピニオン)として捉えるといいだろう。

近年では気象庁の予測精度が一番か

台風は人命に大きく関わる現象である。それゆえ、同じ構造のハリケーンやサイクロンも含め、世界中の気象機関で予測精度の向上を図る研究が行われている。予測技術の進歩とスパコン性能の向上により、年によってばらつきはあるものの精度は着実に上がっている。ではどこの気象機関が最も予測精度が高いのか。気象庁が「各国気象機関による台風の予測精度」の追跡と検証を実施した結果が、以下のグラフだ。

縦軸は予報の誤差で、値が低いほど誤差が小さく予測精度が高いことを示している。これを見ると、最も精度が高いのがECMWF(ヨーロッパ中期予報センター)であることが分かる。ECMWFはイギリスに本部がある、ヨーロッパ地域の23カ国が加盟する国際的な気象機関である。

ということであれば、より正確な台風進路を知りたいのであれば、ECMWFのウェブサイトを見ればいいことになる。だが、上のグラフは2016年までの検証結果であり、近年は日本の気象庁の躍進がかなり期待されている。

気象庁は台風予測に関して、2015年から新たな手法を導入した。簡単にいうと精度が良い4つの気象機関のデータを活用して予測を作り上げるもので、日本の気象庁、イギリスの気象庁、アメリカの国立環境予測センター、ECMWFの予測を活用する。それぞれの機関が独立した手法で台風の計算をしていて、その予測結果を総合的に用いることで、日本単独で予測するよりも精度が高い結果が得られる。これはコンセンサス手法と呼ばれ、いわゆる「いいとこ取り」だ。

コンセンサス手法は今や日本だけでなく、世界の気象機関で使われているが、台風予測でトップクラスの技術力を誇る気象庁は、今後さらに研究を重ね、継続的に精度を向上させていくだろう。最新の予測精度の比較はまだ公開されていないが、気象庁の生み出す成果と役割は、国内だけでなく台風の影響を受けるアジア各国も注目しているはずである。

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